第56章 それは
「公安に助けを求めると、彼の首を絞めることになりますよ」
行動に気付いたのか、私の目から視線は離さないままカバンに伸ばしかけていた手を掴まれた。
「・・・どういうこと、ですか・・・」
零の首を絞めることに・・・なる、とは。
「ベルモットが、バーボンの事をノックではないかと疑っています」
「ノック・・・?」
「所謂、スパイということですよ」
それは・・・つまり、組織での零の立場が危ういということでは。
それどころか、命の危機すらあるんじゃ・・・。
「その原因は、貴女です」
「・・・ッ!」
はっきりと突き付けられた現実に、思わず言葉を失った。彼の言葉には心当たりしか無かったから。
「分かって頂けたようでしたら、車に乗って頂けますか。話はそこで」
私がいることで、零に迷惑がかかる。
こんなことを彼に言えばまた怒られる。
だけど、今は迷惑どころでは済まされない。
彼の命が・・・掛かっている。
これに迷う必要があるだろうか。
「・・・公安の方に電話するので、待って頂けますか」
「早めにお願いします」
そう許可を得ると、近過ぎていた体がスっと離れて。
零のスマホをカバンから取り出すと、素早く風見さんへと電話を掛けた。
『はい』
コール音が鳴るか否か。
その電話はあまりにも早く取られた。
「如月です」
『・・・早いですね、移動ができましたか?』
風見さんはこの事態を知っているんだろうか。
どういう風にこの指示を受けているのかは知らないが・・・今、零と話さなくて良いのは助かったと言える。
「すみません、風見さん。今から私はFBIの方に保護を受けます」
『!!』
居場所なんてすぐバレるから。
それに、嘘はつきたくない。
こんなこと零が知ったら・・・怒るんだろうな。
『待ってください、降谷さんからは何とかすると伝えられています。貴女が心配することは何もありません』
落ち着きの中にも、焦りを含んでいるような声色。
風見さんは何か知っている口振りで。
例え風見さんの言うことが真実でも、私がFBIの保護についていた方が零への危険は減るはずだから。