第56章 それは
「回りくどいですよ」
いつも彼はそうだ。
肝心な事はすぐ口には出さず、勿体ぶる。
阿笠博士がいないのであれば、別の家に向かうまでなのに。
「では、単刀直入に言わせて頂きますよ」
その一瞬、彼の目付きと纏う空気が一変した。
それにゾクッとした悪寒のような物を感じて。
「今日から貴女の保護は、FBIが預かります」
・・・言っている意味が分からない。
私は公安に保護されている身なのに。
それをFBIが保護するとは・・・?
いや、そもそもそれを昴さんが言いに来る意味が分からない。
言いに来るならジョディさんやキャメルさんが来るはず。
「・・・私は透さんに」
「彼にはもう伝えてあります」
言いかけたところを、食い気味で昴さんに突き付けられた。
・・・分からない、理解が追い付かない。
零にはもう伝えている・・・?
それを零は許可したんだろうか・・・?
・・・いや、違う。
拒否を示したからこそ、風間さんからあんな電話がきたんだ。
零からは何らかの理由で連絡できなかったんだ。
・・・でも、間に合わなかった。
「そういう事ですので、大人しくついてきて頂けますか」
「嫌です、私は公安の保護につきます」
とにかく風見さんに連絡しなければいけない。
説明を求める時間は無さそうだが、別の指示を受けることはできるはず。
「手荒な事はしたくありませんので」
そう言って壁際に追い詰められて。
幅の無い階段では容易にかわすこともできない。
力で敵わない以上、無理に距離をとることもできない。
とにかく、この人を・・・やり過ごすしかないんだ。
「どうして昴さんがFBIからの指示を受けているんですか」
「まあ、彼らとは協力体制をとっていますからね。それに、ここを知っているのは僕だけですし」
当然と言いたげな言い方に苛立ちが募りながらも、僅かに残る冷静さを保って。
ゆっくりカバンに入っているスマホへと手を伸ばしていった。