第56章 それは
「・・・!」
突然、零から借りているスマホの方から、鳴ることのなかった電話の着信音が鳴り響いて。
メールが来ることはあっても、電話は一切無かったスマホを半ば慌てるように手に取ると、画面に映った電話番号を即座に確認した。
「か、風見さん・・・?」
零だとばかり思って手に取ったが、画面には何故か風見さんの名前が表示されていて。
それでも慌てない理由にはならない。
戸惑いはあったものの、急いだ気持ちは保ったまま受話ボタンを押した。
「も、もしもし・・・?」
『風見です』
いつもの落ち着いたトーンで名乗られて。
一瞬間違って掛けたのかと疑ったが、私の声を聞いた上でのその声色に、電話は間違いでは無かったことに確信を得た。
「どうしたんですか、突然・・・」
『今、どちらにいらっしゃいますか』
消え掛けていた戸惑いは再度生まれてきて。
どうして風見さんがそんなことを聞いてくるのだろう。
「れ、零の事務所に居ます」
新たな疑問が生まれつつも現状を答えると、ほんの数秒間沈黙が流れた。
その沈黙にどこか胸のざわつきを覚えて。
『阿笠博士という方のお宅に移動はできますか』
阿笠博士の・・・?
突拍子もない指示に、何か起きているんだろうかと不安を感じて。
「・・・大丈夫です」
『では今すぐ、向かってください』
間髪入れず風見さんからそう指示を受けて。
それに、そこはかとなく不安を感じた。
「一人で行動して良いんですか・・・?」
『緊急時ですので構いません』
落ち着いたトーンの中にも、どこか焦りのような声を感じた気がした。
それが更に不安を煽ったが、今は風見さんの言うことに従うしかない。
「分かりました、すぐに向かいます」
『着いたら私に、連絡を入れて頂けますか』
零ではなく・・・風見さんに。