第56章 それは
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「食後のコーヒー、飲まれますよね」
「じゃあ・・・いただきます」
居心地が良くてつい長居してしまいそうになる。
理由はそれ以上に、彼がいるから・・・になるんだろうけど。
「梓さんは休憩どうぞ、僕はもう少しで上がる時間ですし」
「じゃあお言葉に甘えて!」
そう返事をする梓さんはどこか楽しそうで。
今日は平日ということもあり、店内の客は私一人だ。
つまり、梓さんがいなくなると零と二人っきりということで。
「如月さん、ファイトです!」
わざわざ私の隣まできてガッツポーズを見せては口元を緩ませた。
言ってしまえたら楽なのに、なんて思っていた矢先。
「ひなたさんは僕の車で送っていきますから、終わるまで待っていてくださいね」
そう零に言われて。
「安室さん、如月さんにはとことん優しいですよね。少し通り越して過保護にも見えます」
それは私も同感だ。
零は少し過保護なところもある。
・・・ただ、事態が事態だけに、それは過保護にもなる。私が零の立場なら・・・こんな危機感の無い人間、早々にどこかへ閉じ込めている。
「過保護にもなりますよ」
コーヒーを煎れながら、私の脳内で流れた同じ言葉で返事をすると、自然と視線は零へと集まって。
「僕達、付き合っていますからね」
「!?」
「え、そうだったんですか!?」
梓さんが私達へ交互に視線を向けて驚いているが、彼女以上に聞き返したく、驚いているのはこっちの方で。
「と、透さん・・・!?」
突然何を言い出すのかとカウンター越しに身を乗り出すと、コーヒーをカップに注ぎ終えた零が意地悪そうな笑みをこちらに向けた。
「梓さんには僕達が付き合っていること、言ってもいいんじゃないですか?」
いいも何も・・・そもそも付き合うなんて言葉を貰ったことも言ったことも・・・。
そう戸惑いだらけの思考のまま、目を輝かせる梓さんへと、小さく視線を動かした。