第56章 それは
「警察官の兄は、どんな人だったんですか?」
私の記憶には、警察官でない兄しか残っていない。
優しく、いつも私のことを気にかけてくれる兄しか。
「自分が警察官であることを誇りに思っている、とよく口にしていました。貴女を守りたいから、警察官になったのだとも」
私を、守りたいから。
確かに小さい頃の兄はよくそんな事を私に言っていた。
でもそれは幼い言葉だった為、本気で受け取った事は無かった。
まさかそんな理由で警察官になったなんて。
「・・・それに、いつも貴女の話をされていましたよ」
「私の?」
忙しいからと会う時間は殆ど無かったのに。
気には掛けてくれていたんだと思うと、胸が詰まるような思いになった。
「だから昨日は、初めて会った気がしませんでした」
そう話す風見さんの横顔は、どこか懐かしさに浸っているような表情で。
きっと兄とはよく一緒にいたんだろう。
彼の中にも兄は残っているんだと感じて。
・・・風見さんも、兄の死の原因については知っているんだろうか。
気にはなったが、零が自分の口から話していない以上、風見さんに聞くのは少し違う気がして。
その事だけは聞くことができなかった。
「少し離れていますが、ここで降ろすように降谷さんから言われていますので」
風見さんのその言葉で、車が停車していることに初めて気が付いた。
慌てて辺りを見回すと、次の角を曲がって真っ直ぐ行けばポアロに着くところで停まっていた。
「すみません、わざわざありがとうございました。またお話聞かせてください」
「こちらこそ。では」
最後に柔らかい笑顔を向けられると、その車は颯爽と走り去っていった。
それを見送ると、高鳴る胸を感じながらポアロへと向かって。
角を曲がると見えたポアロの看板に、心拍数が上がっていく。
ポアロにいる彼を見るのは久しぶりでは無いし、何なら別れて半日程度だ。
それでも彼と会えることに、喜びを抑えることはできなかった。