第56章 それは
準備してくれた朝食を有難く食べ終えて時間を確認すると、もう八時をとっくに過ぎていた。
最近少しだらけ過ぎている。
彼の隣で仕事を続ける以上、もう少し身を引き締めなくてはと両手で頬を軽く叩いて。
お昼までにまだ時間はあるが、外出するのであれば連絡は早めにしておいた方が良い。
そう思って、風見さんの連絡先が書かれたメモを手に取ると、何度も脳内で繰り返して頭に叩き込んだ。
零の書き置き通り、そのメモ達は炊事場で燃やして処分した。
どこから零の正体がバレるか分からない。
揺れる炎を見つめながら、それは私自身の行動も左右するんだと改めて思って。
零に限らず、コナンくんも。
私の周りの探偵達は互いへの秘密が多過ぎる。
何故かそこに私が組み込んでいて。
考えても答えの出ない疑問を放り投げるように小さくため息をつくと、覚えたての電話番号をスマホの画面へと打ち込んだ。
数回のコール音の後、その電話は相手に受け取られた。
『はい、風見です』
「お、おはようございます。如月です」
風見さんが出ることは分かっていたのに。
昨日の零の言葉が一瞬チラついた事で妙に緊張してしまって。
『掛かってくると思っていましたよ』
「え?」
少し笑っているようにも聞こえるその声色に、一文字で何故かと聞き返した。
『降谷さんの所に行きたいんですよね』
零が事前に伝えていた事を悟ると、再び小さいため息が漏れた。
私の行動全てを把握している、と零に言われたみたいで。
実際にそうなのだけれど。
『違いましたか?』
「あ、いえ・・・っ!大丈夫です、当たってます」
数秒の沈黙だったが、風見さんを不安にさせるには十分な時間だったようで。
相手に見えないのに思わず手を振って否定の言葉を口にした。
『では十二時頃に迎えに行かせて頂きます、それまではそこを動かれないようにお願いします』
「分かりました」
用件だけの短い電話はすぐに終わって。
早々と役目を終えたスマホは、机の上へと置かれた。