第55章 気付く
「二度とそんなことが言えないように、蓋をしておかないとな」
「じゃあ、言う度にキスできるんですね」
お互いの視線がギリギリ交わる程の近い距離。
そして、密着しているからこそ分かった、彼の僅かな動揺。
その一瞬の隙をついて、今度はこちらからその唇に蓋をした。
自分からするときは、なるべく触れるだけ。
いつもは恥ずかしいから、という意味もあるが・・・今は彼への誘いや挑発とも言える意味も込めて。
「どうなっても知らないからな」
彼の目付きが狼へと変わった。
これほどまでに、気持ちで彼を迎え入れていることなんてないかもしれない。
それだけ今は彼を・・・欲していた。
ーーー
甘過ぎる夜はゆっくりと更けて。
一度体を重ね、疲れきった体を労うようにお風呂へと向かったが、そこでも互いの欲は暴走し合い、再び求めあった。
これ以上体を動かすことは困難、と言えるまでその欲望は満たされ続けて。
ベッドへと倒れ込むように二人で並ぶと、零が片腕を枕に、もう片腕で優しく私を包み込んだ。
それがこの上なく心地よく、今にも眠りについてしまいそうで。
「・・・ひなた」
「はい・・・?」
そんな半分寝ているような状況で名前を呼ばれ、間抜けな返事をすれば、今度は彼にクスッと笑われて。
「あの時も、こんな風に眠ってくれれば良かったんだがな」
「・・・あの時?」
意識半分で聞き返すと、優しく包まれていた腕にグッと力が入った。
その行為にどこか目が覚めるような感覚で。
「僕がひなたに銃を向けた時」
その言葉で一瞬で目が覚めた。
電気はついておらず、部屋には僅かに差し込む月明かりしかないが、その表情を確かめるように顔を上げた。
「・・・薬、ですか?」
確かに彼には即効性の睡眠薬といってそれを飲まされた。
でもそれは、昴さんの予想が当たっていれば違う物で。