第55章 気付く
「ただ、僕にはそれ以上に感じてしまった」
・・・それ以上?
つまり、信用、信頼以上・・・ということだろうか。
「・・・嫉妬、ですか・・・?」
昴さんだけでなく、彼にも?
「・・・ダメですか?」
敬語になったのを感じれば、彼の動揺が伝わってきて。
僅かに赤くなる彼の顔を見て、何故かこっちまで恥ずかしくなってしまう。
「そ、そんな風には思ってませんよ・・・!」
それを隠すように慌てて彼の考えを否定するが、それはすればするほど怪しくなってしまうもので。
「大丈夫、分かっている」
頭を腕で包むように抱えられると、そのまま彼の胸の中へと押し込められた。
耳が彼の胸の辺りに当たって。
嫌でも彼の心音が響いた。
ドクドクと早く大きく音を立てるそれを聞けば、私の心臓も合わせるように早く大きくなっていく。
「思いの外すぐに風見へ懐いたひなたを見たら、盗られた気分に陥っただけだ」
そんな風に思いながら私達を見ていたんだと思うと、さっきのハンガーの件も、何となく察しがついた。
零はあの時、私に背中を向ける形で座っていたからその表情は見えなかったが・・・風見さんからは見える位置にあった。
もしかすると、零が怒った表情を風見さんへ向けたのではないのか、と。
そう思えば、少し子どもっぽい彼の行動に思わず笑いが漏れてしまって。
「・・・笑ったな?」
「可愛いな、って思っただけです」
彼の体に自分の体を預けるようにもたれ掛かると、片手で顎を持ち上げられ、その口はすぐに蓋をされてしまった。
「ん・・・っ、ふ・・・んっ」
いつもより少し強引な、荒々しいもので。
舌を吸い上げられては舐めあげられ、ねっとり絡まれば蓋をされる。
苦しいけれど、その苦しさはいつもは感じない嬉しさがあって。
彼の嫉妬からくるものだと思うと、私だけの彼なんだと・・・少しは実感できるようだったから。