第55章 気付く

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「すみません、ご馳走になってしまい」
「とんでもないです。これからどうぞ、よろしくお願いします」

晩ごはんを食べ終えた風見さんは仕事が残っているからと、足早に玄関へと向かった。
それを、互いにお辞儀をしながら見送って。

静かに閉められたドア、階段を降りる音。
それらを確認すると、ドアの鍵を施錠した。

「風見さん、良い人ですね」

食べ終えた食器を片付けながら、ソファーに腰掛けている零にそう声を掛けるが、返事は無くて。

それを疑問に思いながらも、手早くそれらを終わらせた。

恐る恐る、零の顔色を伺うように顔を覗かせると、少し怒っているようにも見える表情で、スマホを触る彼の姿があった。

「･･･零？」

怒っているのか？と問いを含むように名前を呼ぶが、やはり返事は無くて。

少しの気まずさを感じながら隣へと腰掛けると、触っていたスマホを机に伏せて置き、その手で私の手を包んだ。

･･･それはいつもの少し冷たい手では無く、今日は少しだけ温かい気がして。

「･･･風見に合わせなければ良かったと後悔している自分と、会わせて良かったと喜んでいる自分がいるんだ」

突然そう切り出した彼の表情は、言葉通り悲しくも嬉しくもありそうな複雑な物で。

ただ、私にはその言葉の意味がまだ理解できていなくて。

「･･･私は、会えて良かったと思っていますよ」

ただでさえ知り合いが少ない。
その中でも、頼れる人物と言えば零かコナンくんくらいで。

昴さんはその対象では無いことはないが･･･零と居る時は少なくとも違う。

「それが良い点と悪い点と言えるんだがな」
「どういうことですか･･･？」

察しが悪いのは分かっている。
それでも、悪い点が何なのか･･･自分では推理しきれない。

「ひなたが警戒心無く接することができる人物が増えたのは、喜ばしい事だ」

確かに風見さんは･･･最初からどこか親近感のようなものを感じた。

あまり人付き合いは得意ではないが、風見さんとは上手くやっていけそうな気がして。