第55章 気付く
「どうぞ・・・」
「あ、すみません」
恐る恐るといった感じで、床に座る風見さんにコーヒーを差し出すと、また丁寧にお辞儀をされて。
雰囲気だけで想像すると、私よりは年上のように見える。
でも、零の年齢を考えると・・・。
「・・・・・・」
・・・あれ・・・。
そういえば、私・・・。
零の歳、知らない・・・。
「・・・ひなた?」
「え・・・?あ・・・っ、す、すみません・・・!」
彼の呼び掛けで、零の顔を見つめたまま固まってしまったことに気付いた。
慌ててその視線を逸らすと、慌ただしく風見さんと向かい側の床へと腰を下ろした。
ソファーに座る零は隣に座れと言わんばかりの視線を向けてくるが、座布団があるとはいえ、風見さんが床に座っている以上、私もそれに合わせる。
そう視線で訴え返した。
「・・・ひなたらしい」
笑われるように言われれば、それは心底嬉しくて。
彼に私という人を知ってもらえることが嬉しい。
・・・でも私は、彼についてあまりにも・・・知らなさ過ぎる。
「改めて紹介する。公安部の風見と、僕が保護をしているひなただ。互いの連絡先は僕から伝えるから、ひなたは何かあれば遠慮なく掛けてくれ」
再び互いにお辞儀をしながら、零へと視線を向けて。
それは零では無く、風見さんを頼れということ?と。
「・・・悪いが、僕がずっとついていられないこともある。そんな時は風見に言えば大丈夫だから」
申し訳無さそうに言われれば、こちらも申し訳なくなって。
そんなに忙しいのに、私なんかの為に時間を使わせてしまっている。
それがどこか不甲斐ない。
「分かりました」
そう思いながら、俯いて返事をした。
風見さんが信頼できない訳では無い。
零では無いことに不安を感じている。
・・・大丈夫、彼と離れる訳では無い。
今は何度も自分に、そう言い聞かせた。