第55章 気付く
がむしゃらに、そして足早に進めば、事務所までなんてあっという間で。
歩いていれば少しは気が紛れたが、この荷物を持っていてはそう彷徨くこともできない。
とりあえず荷物を持って二階へと進み、持ち帰った服をしまい込むとソファーへと身を投げた。
「・・・・・・」
二人だと丁度良いソファーは、一人だと大き過ぎる。
彼の居ない部屋も、どこか広く感じるようで。
「・・・零」
無意味に名前を呼んでは天井に顔を向けて。
ただただボーッと、何を考える訳でも無く、静かに時間が過ぎるのを待った。
ーーー
お昼を簡単に済ませ、気晴らしに部屋の掃除をしてみたりして。と言っても、既に綺麗に整頓されたこの部屋は、特に改める部分が無い。
あまりにも完璧な彼に、本当に欠点は無いのだろうかと考えては、やはり私なんかでは不釣り合いだと悲観的になって。
彼が居ない今は、少しくらい考えられることを許されるだろうか、なんて思いながら。
「・・・!」
突然部屋中に鳴り響いたのは、スマホの着信音で。
カバンの中からそれを探り当てると、零から借りたスマホからだった。
それから掛かってくるのは、一人しかいない。
「もしもし・・・!」
『ひなた。今、大丈夫か?』
慌てて受話ボタンを押して応答すると、聞こえてきたのは零の声で。
「大丈夫です、どうしたんですか?」
少し雰囲気が違う。
完全に降谷零の時・・・と言うべきか。
つまり彼は今、公安の人間として私に接しているということだろうか。
そう思いながらも、平常を保って返事をして。
『今晩、昨日言っていた部下を紹介したい。・・・大丈夫か?』
大丈夫も何も、彼がそう決めたのであれば。
「構いません」
私はそう答えるのみだ。
『・・・分かった、また帰る前に連絡する』
そう言われると、その電話はすぐに切られてしまって。
もう少し声を聞いていたかった、なんて我儘は心の中だけに閉じ込めて、スマホを机の上にそっと置いた。