第54章 少年は
「貴女は組織の恐ろしさを・・・」
「分かってるつもりだよ」
実際、一度殺されかけている。
そして、恐らく兄を奪った原因で、零の大切な友人を奪った原因。
更には目の前の二人をこんな姿にまでした。
これで恐ろしく無いと言えるものか。
「でも、分かった上で・・・これからも私は透さんに協力する」
彼にそうしてくれと言われた訳では無いけど。
「勿論、コナンくんにもね」
そうなると必然的に、昴さんの協力者を続けることにもなるんだろうが、それもまたアリだと今回のことで思えるようになった。
頻繁に会いたいとは思わないが。
「・・・#NAME#2さん」
「何?」
改まったようにコナンくんから名前を呼ばれて目を向ければ、そこにはより一層、工藤新一を感じるような目付きをする彼が居て。
「これからも危険な事はしない。何かあれば僕や昴さんにも教えて。組織についても、安室さんについても」
その言葉で、少しは彼の信頼を持っていることを実感した。
「・・・分かった」
それを裏切ることがあれば、私は・・・。
「話は終わったかの?」
手をタオルで拭きながら博士が近寄ってきて。
話を聞いていた雰囲気では無いが、博士が組織について知っているとコナンくんは言っていたし、こういう話をすることは何となく察しているんだと感じて。
「ああ、一応な」
「じゃあみんなでお昼にするかの。今日は昴くんから煮物のお裾分けも貰っておるし」
・・・昴さんの、料理・・・。
そういえば、彼の口からもそう聞いていたな、と思い出して。
「すみません、私はこれで・・・」
「食べていかないの?」
少し不思議そうに尋ねるコナンくんに、精一杯の笑顔を作ってみせて。
「・・・昴さんの料理を、今食べたくなくて」
大人気ない言い訳。
それでも事実だから仕方がない。
急にお邪魔した事を詫びる言葉を置いて、その場を去った。
両手に荷物を持って、とりあえず事務所へ帰ることだけを考えて。
今、昴さんの料理に口を付けてしまえば・・・言葉にできない複雑な気持ちが生まれてしまいそうだったことを、考えないように。