第54章 少年は
「ごめん、それを先に言うべきだったね。昨日から透さんの事務所に住むことになったの」
一瞬驚いた様子の彼だったが、少し考え込む姿を見せると、再びその口を開いて。
「・・・昴さん、許したの?」
「え・・・?あ、うん・・・」
どうして昴さんの許しを確認したのだろう。
確かに私をあの家で保護していたのは彼だが・・・。
昴さんが私に好意を持っていることも、私が好意を抱いていることも、コナンくんは知っているんだろうけど。
それを踏まえての問いだろうか。
だとしたら、そんな心配は不要で。
「なら良いけど・・・」
腑に落ちない様子の彼に、私も引っ掛かりを覚えて。
・・・何かある。
彼らの中に、まだ私への秘密があるんだと察した。
私も彼らに話せないことは沢山あるから。
これ以上は追求しないが。
今、は。
「そういえば、毛利探偵が眠りの小五郎を始めた頃と、コナンくんがあそこに住み始めたのって、同じ時期なんだね」
話を戻しながら、見せてもらっていた蝶ネクタイと腕時計を返して。
「・・・回りくどいのはやめようよ」
明らかに彼の雰囲気が変わった。
周りの空気はピリピリと痛みを感じる程に、緊張感が高まって。
「知ってるんでしょ?」
ニッと笑う彼に、心臓を鷲掴みにされる思いで。
こんな小さな存在に。
私は心の底から・・・怯えている。
「・・・工藤新一くん、だよね・・・?」
確証なんてない。
そう思ったのも全て昴さんから聞いた事。
それが真実だとも限らない。
それでも彼の態度を見れば、それが本当かどうかくらい、判断することはできた。
「・・・初めまして、になりますかね」
見た目は小学生なのに。
見えないはずの彼の本当の姿が・・・目の前に見えるようで。
「・・・工藤、新一くん?」
彼が本当にそうなのか。
恐る恐る確認するように名前を呼んだ。