第6章 赤い人
「貴女のような綺麗な女性に興味を持っていただけるなんて光栄ですね」
探偵っていうのはみんなこんな感じなのだろうか。少し安室さんみたい・・・なんて思いながら玄関前で1度立ち止まった。
「では、私はこれで」
「くれぐれも安室という男にはこのことを」
「気付かれちゃ・・・いけないんですよね」
「お願いしますね」
目線だけで了承したことを伝えた。その後は何も言わず、静かにその場を去った。結局彼らと協力状態となってしまった。
これは安室さんが関係ないことを証明する為・・・と自分に言い聞かせるように帰路についた。
ーーー
「ただいま」
言うなりそのままベッドに座り込んだ。
昨日のことを含めて色々疲れてしまった。
今、自分のすべき行動が段々と分からなくなってきていて。
ふと安室さんから貰った時計に視線を向ける。そして吸い込まれるように時計へと歩み寄った。
時計を手にして安室さんを思い出しては、これを見て私のことを思い浮かべてくれたんだと思うと、胸が苦しくなった。
嬉しさ、恥ずかしさ、そして罪悪感。
どっちつかずな自分に対して大きくため息をついた。なんて醜い人間なんだろう。
・・・また悲観的になる。これじゃまた安室さんに怒られるな、なんて思いながら時計を元に戻して。
こういう時は趣味に没頭するのが一番だ。
そう思い、片付けたパーツ達を早々と引っ張り出した。
暫く作業をしているとスマホがメールの着信を告げて。送信者を見れば、安室透の文字。
それに気付いて一番に感じたのはやはり嬉しさで。
『ペット探しの依頼が早速入りました。大丈夫ですか?』
メールは業務内容だったけれど、少なからず私を頼って打ってくれたもので。そう思うと更に嬉しさが増した。
その後、依頼人や住所などを教えてもらい、メールのやり取りは終えた。
やはり安室さんが、悪い人達がいる組織の一員だとは思えない。
その組織が何をしようとしているのかは分からないが、警察官だった兄が潜入していた組織だ。只者ではないのだろう。
どうして警察官になったこと、潜入捜査をしていたことを私に一言も言ってくれなかったんだろう。
理由は分かっていても納得はできなくて。
・・・もうやめよう。
諦めとやるせなさから、ふて寝に近い状態でベッドに倒れ込んでそのまま眠った。