第54章 少年は
一通り荷物を詰め込み、クローゼットの中を整えると、あと一つ持ち帰らなければならない物がある、と昴さんの方へと向き直して。
「・・・スマホ、返してもらえますか」
あの時、零から連絡があって彼に預けっぱなしだったから。
一応ここへ来る車内で、零に予備のスマホをもう一度持たされてはいる。
・・・が、これには零との思い出は入っていないから。
「では、一杯付き合って頂けましたら」
クスッと笑いながら言う彼に、少なからず怒りというものは湧いてきて。
何故彼にそうまでされなければいけないのか。
そもそもスマホは私の物なのに。
「・・・じゃあ、結構です」
今彼と話せば、その分、零を裏切っているような気持ちになってしまう。
そんな思いをするくらいなら、スマホなんて必要無い。
そう思って荷物を持ち、部屋を後にしようとした瞬間、昴さんによってそれは阻まれてしまった。
ドアの入口に手をついて塞ぎ、私を部屋から出さぬようにされて。
少し睨み付けるように彼を見上げれば、またあと笑顔で返される。
「大丈夫です、紅茶のことですよ」
別にそんなことは何も心配していない。
それがお酒だろうと何だろうと関係は無いのだから。
「どっちにしても結構です。通してください」
「ボウヤの話をしたいと言ったら・・・どうですか?」
・・・コナンくんのこと?
「どういうことですか」
「ここから先は付き合って頂けたら、ですよ」
昴さんのことだ。
適当な理由を付けて特に中身は無いかもしれない。
それでも、私の中で一番気になっている彼について、何か少しでも聞けることに興味が無いと言えば嘘になる。
「・・・・・・っ」
零の存在が何度も脳内をチラついて。
コナンくんについては零も気にしていた。
それは降谷零としての言葉だったのかは分からないが、興味を持っているのは確かだ。
・・・彼に少しでも有益な情報を持ち帰れるなら、とそこで決意を固めた。