第54章 少年は
「・・・ふー・・・」
一度色々落ち着かせる為に、深呼吸をして。
決意を固めたところで、工藤邸のインターホンを押した。
『はい』
「・・・如月です」
『開いてますよ、どうぞ』
聞き慣れた声と必要最低限の会話を交わして。
彼のあの予想は当たってしまったんだと思うと少し悔しい部分もあったが、別に彼に会いに来たわけではないと心の中で言い訳をして。
門を開き中庭を抜けて、ドアノブに手を掛ける。
ゆっくり扉を開くと、そこには彼が立っていて。
「おはようございます」
いつもの勝ち誇ったような笑顔。
彼の言いたいことは分かっている。
けど、お互いそれは敢えて口に出さなくて。
「おはようございます。荷物を取りに来ただけですので構わないでください」
「おや、冷たいですね」
そう返す彼の横を無言で通り過ぎて。
何か返せば彼の思うツボだ。
これ以上、無駄な会話はしたくない。
真っ直ぐに借りていたゲストルームへと向かい、とりあえず必要な服だけを適当な袋へと詰め込んだ。
もうここで寝泊まりする事も無いんだと思えば、清々しさも寂しさもあって。
「少しは置いて行った方が良いですよ」
「・・・!」
突然部屋の入口付近から昴さんの声がして。
クローゼットに突っ込んでいた顔を勢いよく、その方向へと向けた。
「ここへはまた来ることになるでしょうから」
「・・・そんな事ありませんよ」
もしそうなってしまうのであれば、野宿でもした方がマシだ。
それに、そんな事を零が許すはずもない。
「とりあえず、数枚は置いて行った方が良い。後悔はさせませんから」
何の、と聞き返したくなる気持ちをグッと堪えて、仕方なく彼の言葉に従うこととした。
もう来ることも無いだろうが、それでも彼の予想は当たることが多いから。
今回の事も含め、当たって欲しくないものばかりだけど。
どうせ今回も、叶って欲しくないと願っても、またそうなってしまうんだろうな、と半ばどこか諦めていて。