第54章 少年は
あれから、重く動かなくなった体を零が運び、もう一度二人でシャワーを浴びた。
そこでも欲望は飽きること無く、再び体を重ね合わせて。
この幸せが続くのだと・・・それを噛み締めて。
ーーー
気が付いたら眠っていた。
起きるとそこはベッドの上。
昨日のことは夢では無いんだと思えば、とりあえずは安堵ができて。
それでも、姿の見えない彼の事を思えば、不安は募った。
「・・・零?」
体を起こし、辺りを見回すが姿は無い。
仕事に行ってしまっただろうか、と書き置きなども探すがそれも無くて。
時計は朝の六時頃を指している。
今日はポアロなのかもしれないと考えながらも、それなら書き置きなどがあるはず、と考えれば考える程、不安は大きくなった。
彼が居なくても不思議ではないのに。
何故かそれが落ち着かなくて。
とにかく、連絡手段が無くてはどうにもならないと、零が居ないのであればスマホを取りに工藤邸へ向かおうと考えた。
適当に服を取り出し着替えを済ませると、靴を履いてドアノブに手を掛けた。
「・・・!」
ドアノブを回した、と思ったが、逆にそれは回されていて。
開くと思っていなかったドアが勝手に開き、押し戸側だった私は驚いて声も出ないまま、バランスを崩して前方へ倒れ込んだ。
「おっと・・・」
倒れ込んだ体は何かに受け止められて。
でもその何かは、見なくても香りですぐに分かった。
「零・・・っ」
嬉しさでバッと顔を上げると、少し驚いた様子の彼の姿がそこにあって。
「起きてたのか」
受け止めた体を、優しく抱きしめてくれて。
それを返すように、私も彼の背中へ腕を回して抱き締め返した。
「・・・で、どこへ行くつもりだった?」
これも見なくても分かる。
きっと顔は笑っているけど、内心は怒っている零だ。
工藤邸へ行くことは半ばバレてしまったようだ。
「・・・零を探しに」
きっと工藤邸に行った後、言葉通り彼を探していたんだろうから嘘では無い、と心の中で言い訳をした。