第53章 初めて※
今度は覆われること無く、軽く衣服を直された所で、彼に腕枕をされながら横並びで寝転んだ。
一度疼いてしまった体が気にはなるが、それを口にすることはできなくて。
「・・・さっき、何を考えていたのか聞いても良いですか」
徐ろに零がそう尋ねてくる。
その答えを、正直に言って良いものか迷って。
私は何気無く考えていたことだが・・・彼にとっては嫌な事かもしれない。
そう思うと、言えない時間が数秒流れた。
だが、彼にはその数秒間で、私が質問に対して拒否を示していると取られたようで。
「言えませんか?」
「ち、ちが・・・」
・・・違わない。
言えないんだ。
さっきの沈黙が答えなんだ。
「当ててみせましょうか」
その言葉に口から心臓が出そうな気に襲われて。
「あの男のこと、少しでも考えてませんでした?」
追い打ちをかけるように、昴さんのことを問われた。
確かに、昴さんのことは思い浮かべた。
けれどそれは考えの延長線上であって・・・。
そう頭の中でだけ反論するが、何もかもただの言い訳でしかない。
そしてこの沈黙は、今度は肯定の沈黙となってしまう。
「僕だけを、と言ったのはまずかったですね。まるでさっきまで誰かの事を考えていたみたいだ」
そんな僅かな言葉だけで探られてしまうなんて、やっぱり探偵相手には気が抜けない。
零は探偵もカモフラージュなんだろうけど。
「・・・透さん」
今はそんな気がしたから。
その名前で呼んで。
「・・・何ですか?」
否定しないということは、それで受け入れてくれたのか、知らぬ間にそうだったのか。
いずれにせよ、今は零じゃないんだと思って。
「私も・・・如月ひなたが、もう一人いる気がしてたんです」
零の前での自分と、昴さんの前での自分。
「前に透さんも言ってましたよね、昴さんと話す私の方が私らしく見えるって」
黙って話を聞く彼は、何かを考えているのか、はたまた怒っているのか。
それを今すぐ確認できる程の度量も、私には持ち合わせていない。