第6章 赤い人
「如月さんが本田さんに注意しろって言われてた黒のポルシェ356A、僕達が追ってる悪い奴らもよく乗ってる車だから。ちょっと気になって調べたんだ」
だからあんなにポルシェにこだわっていたのか・・・別にポルシェが好きな訳じゃなかったんだ・・・と思うとなんだか悲しさが込み上げた。
「安室さんは・・・その組織の一員の可能性がある」
耳を疑った。安室さんが・・・兄が潜入していた組織の、一員・・・?
「それは、ない・・・っ!」
思わず立ち上がって声を荒らげた。興奮からか息が上がる。
「・・・ごめん、だからそれを調べる為に協力してほしい」
コナンくんの悲しそうな顔。
・・・そうか、彼もそうであってほしくないと思っているんだ。
未だ荒ぶる気持ちと息を何とか落ちつけて、ソファーへ座り直した。
「昴さんも実は探偵で、その組織のことを調べてる」
探偵・・・安室さんと同じ。確かに表情から読み取れない感情や、人当たりが良さそうな雰囲気は似ている気がする。
「お願い、協力してくれる?」
改めてコナンくんから頼まれる。
協力したいのは山々だが、相手は安室さんだ。何時何処で私がヘマをするか分からない。
「具体的に・・・何をすればいいの」
まずは話を聞いてみないことには、と思ってすべきことを尋ねてみる。
「安室さんに不審な動きがあれば教えてほしい。あとは、何か少しでも違和感があれば教えて」
「・・・それだけ?」
「それ以上はできないでしょ」
ごもっともだった。言われた相手は小学生なのに。なんだか情けなくなる。
でも、安室さんとは会うことすら少ない。ましてやこれから約一ヶ月は探偵業もお休みなのだ。
「・・・悪いけど、暫くは会えないと思うよ」
改めて会えないことを実感して寂しくなる。
「どうして?」
「安室さん暫く探偵お休みするらしくて」
問いに答えると、コナンくんは暫く考え込んで。
「ありがとう、それ聞けただけで十分」
そんな大切なことだったんだろうか。少し言ってしまったことを後悔した。安室さんのことを信じてはいる。でもコナンくん達を疑ってはいない。
安室さんを信じているからこそ、コナンくん達を疑っていないからこそ、それぞれにそれぞれの有益な情報を与えることに少し不安があった。