第53章 初めて※
「ち、違います・・・!」
「ほぉー、僕はてっきり誘われているのかと」
それは彼から最後だと思って貰ったキスマークで。
今朝も今も、何となくで選んだ服を着ていたから。
・・・彼の言葉通りであれば、これはジョディさんや梓さんに見られていないことを知って安堵した。
「・・・違います、けど・・・違わなくも・・・ない、です・・・」
ハッキリとは言えないその言葉に、顔が熱くなっていくのが分かる。
きっと真っ赤なんだろう、な。
でもそれを抑えるほど、器用な自分は持ち合わせていない。
「・・・どうされたい?」
意地悪なことを話す時の彼は心底楽しんでいるようで。
好き、だけど嫌い。
そんな矛盾する感情を抱いてしまうその時の彼には、いつも心臓を悪くさせられる。
「・・・零は・・・?」
これが彼にとって意地悪なのは分かっている。
そして便利な返しだということも。
「今日はひなたの意思で動きます」
何度か使ったこの手も、今日は使えないようだ。
膨らみに添えられているその手はピクリとも動くことなく、ずっとそこにいて。
段々と熱を共有して温かくなってくる彼の手を焦らしているのは、今となっては彼なのか自分なのか、微妙な所で。
「私・・・は・・・」
視線は合わせない。
合わせるのが恥ずかしいというのもあるが、合わせてしまえば自分の気持ちに制御ができなくなりそうだから。
「零に・・・触って、ほしい・・・」
羞恥は十分感じている。
だからこれ以上。
「どこを、ですか?」
そんな意地悪はやめてほしい。
「・・・ッ」
口に出すのが苦手なのを知ってるのに。
言えるなら、とっくに言っているのに。
その言葉を飲み込んで、彼の首に腕を回して引き寄せた。
一瞬視界に入った、少し見開いた彼の目。
それを感じながら、今度はこっちから彼の口に蓋をした。
舌は入れず、本当に蓋をするだけ。
これが今私にできる、精一杯の抵抗。