第53章 初めて※
「ひなた」
「は、はい・・・」
ハッキリと口にされた名前に、自然と背筋が伸びて。
真っ直ぐ私の目を見る彼の瞳は、私の大好きなそれなのに、吸い込まれてしまいそうになる感覚に、恐怖に似た感情も生んだ。
「貴女は僕の傍に居たくないと思いますか?」
「お、思わない・・・です」
「なら、それで良い。それ以上に必要なものは無いはずですよ」
納得出来る理由かと言われればそうではないけど、彼がそう言うのであれば、私はそれ以上は言えない。
ゆっくり視線を落としながら、腑に落ちないこの気持ちにはそっと蓋をした。
「・・・納得いきませんか?」
「え・・・?」
流石にさっきの、ふとした行動でバレてしまっただろうか。
こんな気持ちは持つだけ面倒だと自分でも分かっているのに。
彼にそう思われてしまうことも嫌なのに。
それでも明確な答えが欲しいと思ってしまう。
どうすれば自分が納得できるのかも、分からないくせに。
「納得できないのであれば、させてあげますよ」
そう言っては手を引かれ、ベッドへ倒れ込むように私の体を押した。
その上には勿論、零が覆い被さっていて。
「・・・!」
少し乱暴な扱いだけれど、怒っている様子は無くて。
きっとこれが、降谷零のやり方なんだと悟った。
「僕がどれだけひなたを愛しているか・・・教えてやる」
ドクン、と大きく心臓が音を立てた。
何もしていないのに、何もされていないのに。
息も心拍数も、自然と上がっていった。
「ま、待って、零・・・っ」
「待てない」
言葉通り、少しの間も無くその唇は蓋をされた。
ねっとりと絡み合う舌に意識が朦朧とし、息をする事さえも忘れてしまう。
キスの最中に頬へ触れた彼の手は、いつもの冷たさがある。
それが妙に安心するのは、その手で彼だと判断できるからだろうか。