第52章 居場所

「まあ、少しは世話になりましたからね。ここに居ることを連絡するくらいは、我慢しますよ」

本当は嫌ですけどね、と付け加えられながら彼からスマホを受け取った。

申し訳無さは十二分に感じながら、お礼を言ってその場を離れた。
一応、彼の目の前で掛けることは避けた方が良いと思って。

脱衣所に入ると、暗記していたそれを電話画面に打ち込んだ。
何故か緊張してしまうその行動に、一度大きな深呼吸をして。

意を決して発信ボタンを押した。

『･･･はい』

数回のコール音の後、彼の声が聞こえて。
同時に何故か心拍数も上がっていった。

「あ･･･、如月です」

どこかよそよそしくなってしまう挨拶に、何故緊張する必要があるのかと自分を責め立てた。

『やっと連絡してきましたね』

彼らしい言葉を聞けば、その緊張も勢いよく解けていって。
どちらかと言えば、悪いのは私なのに。

『彼と居るんですね』
「･･･はい」

それはこの電話の発信元を見れば分かることだ。
だけど、伝えたいことはそれじゃない。

「あの･･･昴さん･･･」
『荷物が必要ですか？』

私が言いかけた瞬間、昴さんがそう問いかけてきて。
何もかも知っていると言いたげなその問いに、思わず戸惑ってしまった。

「ど、どうして･･･」
『おや、今日からそちらに住むのでは？』

そんなことまで見通されているのかと、最早出てもこないため息を隅に置けば、言葉も出てこなくなって。

『違いましたか？』
「･･･合ってますよ。荷物はその内に取りに行きますから手を付けないでください」

特に大切な物は置いていないが、透さんから貰った服もあの部屋にはある。
それだけはなるべく、こちらへ移動させておきたかったから。

でもそれを昴さんに触れられることはなるべくさせたくなかった為、後日取りに行く旨を伝えておいた。