第52章 居場所
「えっと・・・」
冷蔵庫には何故か一通りのものは揃っているようで。
そういえばいつだったか、彼にお弁当を作ったことがあったな・・・と思い出しては、その時に彼に気に入ってもらえたおかずがあったことも思い出した。
久しぶりな上にレシピが無い為、上手くできるかは分からないが、やるだけやってみようと材料を取り出して。
これから彼と、こんな時間が増えるのだろうか。
そう考えるだけで、自分の身が危険な状況なのは変わらないのに、心が踊った。
ーーー
「・・・ひなた・・・さん?」
料理も終わりに近付いてきた頃、零がソファーから体を起こしながら、寝ぼけ眼でこちらを向いて。
「あ・・・、すみません。起こしちゃいました・・・?」
一旦手を止め彼の傍へと駆け寄るが、まだ当の本人はボーッとしている様子で。
「大丈夫ですか・・・?」
近くで彼の顔を覗き込むように尋ねると、暫く私の顔を見つめられて。
彼も・・・寝起きは弱いのだろうか。
そんなことを思いながらその目を見つめ返していると、彼が急にハッと気付いたように辺りを見回して。
かと思えば、頭を片手で頭を抱えながら大きく深くため息をついた。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
おろおろと彼の反応を見つめることしかできないのが不甲斐ない。
そう思いながらも下手に声を掛けることも、手を出すこともできなくて。
「・・・すみません」
頭を上げないまま、零が言葉通り、申し訳なさそうにそう一言だけ呟いた。
その言葉に、少しだけムッとしてしまって。
「謝ってほしくないです」
僅かにその怒りを含んだように言い放つと、彼が小さく目を見開いては私を見た。
「私は嬉しかったです。零が私を信用してくれているんだって」
彼のため息の理由は察することはできる。
だが、それに謝られては、私の存在意義まで失われてしまうようで。
「私の前では無防備でいてください。できるだけ零の・・・安心できる場所を作りたい」
それが今の私の願い。
どこまで叶えられるかは・・・彼がどれだけ私を信じてくれるか、だけど。