第52章 居場所
「零・・・?」
確かめるように名前を呼ぶが、返事は無くて。
本当に怒らせてしまっただろうか、と不安になりつつも、それ以上声を掛けることもできなかった。
「れ、零・・・」
恐る恐るもう一度呼んでも、やはり返事は無い。
・・・というよりは、少し様子がおかしくて。
体が完全に、私へ預けられている気がする。
「あの・・・零・・・?」
彼の体を支えながら顔を覗き込むようにそっと動くと、目に飛び込んできたのは、疲れた様子で眠りについている彼の姿だった。
静かに寝息を立てる零の姿を見て、鼓動が早く大きくなるのが手に取るように分かって。
彼の寝顔を見るのはこれで二回目。
けれど、あの時はきっと狸寝入りだった。
でも今の彼は・・・。
「・・・・・・」
きっと昨日あんな事があったから、ろくに寝ていないのだろう。
せめて体を横にさせてあげようと、ゆっくり体をズラしながら零をソファーへと転ばせた。
ずっと無理していたんだ。
そっと彼の前髪を指で撫でながら、よく見ると薄ら見える目元のクマを確認して。
彼は自分の弱さを出さないから。
私と居る間だけでも・・・ほんの少しだけでも、彼が無防備になれる時間を作ってあげたい。
彼を組織から抜け出させるという私の身勝手な願いは、思わぬ形で違う方向へと向かったから。
今は彼の願いを少しでも叶えたい。
彼に毛布を掛けながら、そう強く思って。
「・・・おやすみなさい」
零の頬にそっと唇を落として、そう囁いた。
ーーー
あれからあっという間に夕方が近づいてしまって。
彼が起きる様子は無かったが、流石にこの場を離れることはできなかった。
せめて昴さんに連絡だけでもできれば、と思ったが、スマホも何も持っていないこの状況では、それすら叶わなくて。
とりあえず、零が作ったものには劣るが、夕飯の支度をすることにして。
・・・昴さんに教わっておけば良かったかな、なんて思いつつも、それを彼が知ったら本当に怒られそうだ、と心の中だけで小さく笑った。