第52章 居場所
「何を・・・ですか?」
その殺意に溢れた瞳が怖くて。
これが安室透で隠されていた降谷零の部分なんだと思うと、彼の中にある闇に近い部分は、いつも押し殺されていたんだと察した。
「アイツは、僕の大切な友人を奪った」
大切な、友人・・・。
「そいつは貴女のお兄さんと同じく、警視庁公安部から組織に潜入していた」
・・・そこまで公安の人間が潜入しているのに、壊滅まで追い込めないあの組織とは、一体何者なんだろうか。
「僕達は中心部まで食い込むような深い捜査だったが、貴女のお兄さんは所謂、伝達係といったところです。コードネームは与えられていませんでした」
組織の中でもコードネームを与えられない人間もいる・・・恐らく、楠田陸道もその類か。
「僕の友人は組織に公安だということがバレて、その時組織に潜入していた赤井秀一に追い詰められた。そこで奴に・・・」
赤井秀一に、追い詰められた・・・?
「で、でも・・・赤井さんもスパイなんですよね?」
仮に赤井秀一に公安だとバレても、彼だってFBIだ。
彼がその友人を殺す理由は・・・。
「友人は自害だった」
背筋に冷たいものが走った。
体中の血の気が無くなるようなその感覚に、目眩がするようで。
「どう、して・・・」
「それをアイツに確かめたい。何故彼を・・・彼の自殺を止めなかったのかと」
再び殺意の溢れる眼差しを見せると、赤井秀一に対する彼の敵意がやっと分かった気がして。
だから昴さんのことをあんなに嫌っていたんだろうか。
彼が赤井秀一だと・・・思い込んでいたから。
「・・・昨日の電話では、ふざけた謝罪を受けましたよ」
昨日の電話・・・というと、工藤邸で私達の目の前でしていた、あの電話のことか。
「あの時の事は、今でも悪かったと思っている・・・と」
そう話す彼の横顔が、憎しみで歪んでいく。
それ程までに、その友人は・・・大切に思われていた事を思い知らされた。