第51章 真実を
「・・・まだ僕に、その資格があるでしょうか」
無理矢理作られた笑顔は、こうも人を苦しめることができるのか、とその時知ることができた。
心臓を鷲掴みにされるような感覚に、息が止まってしまいそうで。
「・・・私は、透さんじゃなきゃ・・・嫌です」
昴さんでは・・・ダメなんだ。
彼でなければ・・・意味が無い。
「嘘吐きな僕を、許してくれますか・・・?」
許すも何も、許されないことを彼からされた覚えはない。
それに。
「・・・嘘吐きはお互い様ですよ」
まだ明かしきれない嘘だって沢山ある。
それはきっと、彼も同じだと思う。
「おあいこ、ですね」
作ったものではない、それでも大きな物は無理だから。
小さな笑顔を見せては、そう彼に告げた。
何もかもゼロにすることはできないけれど、ここを出発点とすることはできる。
ゴールが何かはまだ分からないけど・・・それはまた後々見つければ良い。
透さんが居れば、きっとできる。
「・・・降谷零」
「?」
突然出た、聞いた事の無い名前に首を傾げて。
「僕の本当の名前は・・・降谷零です」
「・・・え・・・?」
彼の本当の・・・名前。
一気に脳内の考えが吹き飛んだ。
「降谷・・・零・・・」
ボソッと名前を繰り返せば、違和感だらけのその感覚にもどかしさや、むず痒しさを感じて。
時折見せていた見たことも無い彼が・・・降谷零だった・・・?
「全てが安室透というわけにもいかなかった。貴女の前では取り繕えないことも多々ありましたから」
・・・じゃあ、あの言葉達は・・・。
「・・・と、透さんが私にくれた言葉は・・・やっぱり嘘だった・・・ということですか?」
「それは違います」
強く否定しながら、肩を掴んでいた透さんの手に力が込められていった。