第51章 真実を
「バーボンである僕が、怖くなかったんですか」
真っ直ぐ前を見つめながらそう問う彼に、チラリと目をやった。
何故か過去形で問う彼に、まるでこの先は無いかのように錯覚して。
寂しげなその表情に、また違う彼を見たような気がした。
「・・・怖かったですよ。でも・・・」
向けていた視線を足元に落として。
彼がバーボンだと知ったその日から、彼に怯えてしまうことが多々あったことは事実だ。
でも、それ以上に。
「透さんを愛していたから」
怖くても、彼を信じようと思ったし、救いたいと思った。
「・・・そう、ですか」
直接見はしないものの、苦しそうに笑う彼が見えるようだった。
握られた手に力が込められれば、心臓も同じように掴まれた気になって。
「・・・貴女が実の兄のように慕っていた本田冬真は、警視庁公安部の人間でした」
突然話を切り出した彼に思わず目が行った。
まるで兄を思い出すかのように話すその瞳に、釘付けになって。
「公安・・・?」
警察官だとは聞いていたが・・・まさか公安部だったなんて。
と言っても、あまり警察内部の事情については詳しくないのだけれど。
・・・ただ、公安は家族にも素性を隠して時には危険な行動をする所だとは・・・テレビ等で聞いたことがある。
「ええ。そして僕の部下の一人でした」
・・・え?
「ぶ、部下って・・・」
それって・・・。
「警察庁公安部、これが僕の所属する場所です」
警察庁・・・公安、部・・・。
透さんが・・・警察官?
「ど、どういうことですか・・・」
全くと言って言いほど、思考が働かない。
つまり彼は・・・。
「僕もまた、貴女のお兄さんと同じ・・・組織のスパイということですよ」
じゃあ、バーボンという彼の姿は・・・。
ずっと怯えていた彼もまた・・・。
偽りの彼だと言うこと?