第51章 真実を
「・・・!?」
走っている最中、背後からいきなり手を掴まれた。
反射的に振り返ると、そこには息を切らしている透さんがいて。
「・・・・・・ッ」
会いたくない時ほど会ってしまう。
彼とは殆どがそうだ。
「は、離してください・・・っ」
掴まれた手はビクともしなくて。
その手はやっぱり少し冷たくて。
「離しません」
キッパリと言われたその言葉に、また胸が苦しくなった。
忘れろと言ったのは貴方なのに。
どうして私の中に残ろうとするの。
これでは忘れるどころか・・・今よりもっと、深く刻まれてしまう。
「貴女が泣き止むまでは」
そう言って、昨日と同じように涙を拭われて。
触れたその指先が愛おしくて仕方がない。
今すぐその胸に飛び込みたい。
いつだって思う気持ちは同じだった。
「・・・少し、話をしませんか」
昨日の事なんだと悟った。
そしてそれは、きっと兄の事。
その話をしてしまえば恐らく・・・今後私は、彼の前に現れることはないだろう。
一緒に居られた理由も・・・無くなってしまう。
それは・・・それだけは・・・。
「・・・はい・・・」
嫌だった。
けれど、このままじゃ前には進めないから。
一つずつ、私の中で結果を残していかなければならない。
「ここではなんですから・・・事務所に行きましょう。此処に居てください、車を持ってきます」
事務所まで歩いてもそう遠くは無いのに。
それに、ポアロはどうしたんだろう。
そう思いながらも、彼の車に乗るのがこれで最後になるのかもしれないと思うと・・・彼の申し出を受け入れたくなった。
「待っていてください」
最後にそう念押しをされてから、透さんは走って行ってしまった。
私が逃げるとでも思ったんだろうか。
それでも良いが・・・きちんと向き合いたい気持ちの方が、今は強くなっていた。