第50章 真相と
「ッ!!」
背中に壁の存在を感じれば、そこに押し付けられたんだと脳で判断して。
彼が・・・目の前にいる。
壁に追いやられた状態で、私を覆い隠すように腕を壁に付いていることも、彼の顔がすぐ傍にあることも、全て目を瞑っていても分かるくらい、それらは近くにあって。
「・・・そのまま聞いてください」
「!」
小声で彼がそう話して。
今の彼は・・・恐らく安室透。
そう思いながら、固く閉じられた瞼をゆっくりと上げた。
「FBIから証人保護プログラムの話が出ていますよね」
・・・その話をジョディさんから持ち出された時、彼はその場に居たから。
それを知っていることは何ら不思議ではない、が。
その話が出るということは。
「・・・僕からの最後のお願いです。それを・・・受けてください」
「・・・ッ」
当たって欲しくない予想ほど当たってしまうもので。
それはバーボンを押し殺しての安室透の言葉?
それとも、バーボンとしての情けを安室透として伝えたの?
「嫌・・・です」
彼の服を掴みながら、絞り出した声で答えた。
もし受けてしまったら・・・彼とは一生会えなくなる。
彼だけでなく、昴さんやコナンくんも・・・。
「・・・お願いです」
切な過ぎる彼の声に、思わず目を向けた。
髪の隙間から見える彼の目は、決意と悲しさが入り交じった、私の知らない彼で。
「嫌・・・っん・・・!」
言葉は吐き出されないまま、その口は彼に蓋をされた。
「ん、ぅっ、・・・んん・・・ッ」
ほんの少し、優しく、ゆっくりと、様子を伺うように彼の舌が入ってくる。
半分は体が受け入れつつ、半分は心が拒んだ。
それを察したように、触れた唇はすぐに離れてしまった。
その時、頬に何かが伝って。
「・・・泣かないでください」
「泣いてません・・・っ」
彼が指で頬に流れた何かを拭った。
泣いてなんか、いない。
泣いてなんか・・・。