第50章 真相と
「透さん・・・ッ!!」
玄関の扉を開けかけている彼を呼び止めて。
何て話せば良い?
何を話せば良い?
どんな顔をすれば良い?
今の貴方は私に・・・誰として接してくれるの?
「・・・ひなたさん」
小さく振り返りながら彼は動きを止めてくれた。
少し走っただけなのに息が上がってしまい、日頃の運動不足が祟ってしまったと嘆きながらも、なんとか呼吸を落ち着けて。
「あの・・・っ」
言いたいことは山ほどあるのに。
言葉はそれ以上出てこなくて。
「・・・ッ」
彼の顔を見れば泣いてしまいそうで。
今すぐその胸に飛び込みたい。
大好きな彼を肌で感じたい。
・・・けれど、そう思っているのは恐らく私だけで。
「何か?」
玄関に向けていた体をこちらへ向き直して。
笑顔はあるものの、少し冷たく感じる物言いに、今の彼はバーボンなのだと悟った。
・・・私は何を・・・期待していたんだろう。
「・・・透さんと、話がしたいです」
バーボンではなく、安室透と。
「・・・・・・」
真っ直ぐ彼だけを見つめ、意志の硬さを伝えたつもり。
その言葉を伝えてから、数十秒間の沈黙が流れた。
お互い視線は外さず、見つめ合ったまま。
透さんの瞳はいつもより少し冷ややかで。
見えない圧に負けてしまいそうになりながらも、引くわけにはいかないと、その捉えた瞳から目を話すことは無かった。
・・・そして、沈黙を破ったのは透さんの小さな溜息で。
視線を逸らして軽く目を瞑りながら吐かれたそれは、どこか胸を締め付けた。
「・・・っ」
ゆっくり、彼が歩み寄ってきて。
無意識に体が後ずさった。
逃げたいわけじゃないのに。
彼と話がしたいだけなのに。
気持ちが・・・心が、予想以上に準備できていなくて。
「・・・・・・ッ!!」
彼が目の前に来た瞬間、彼を捉えて話さなかった瞳は反射的に閉じられた瞼によって隠されてしまった。