第49章 緋色の
「いや・・・、我々の正体を知られた以上、これ以上の深追いは危険です」
透さんがそう言った気がした。
正体を知られた・・・ということは、FBIが透さんは組織の人間だということを知っていると、彼に伝えたのだろうか。
・・・いや、恐らく透さんは既にそれに気が付いていた。
だったら、彼の言う正体・・・とは?
「・・・くっ・・・」
電話切った様子だが、彼は私達に背を向けたまま少しだけ背中を震わせたように見えた。
それは怒りを・・・抑え込んでいるような様子で。
「すみません、何か勘違いだったようで。帰りますね」
振り返りながらそう言う彼の顔には、無理矢理作られた笑顔が貼り付けられていて。
胸がグッと苦しくなった。
どういうことなのか、と彼らに問い詰めたい。
沖矢昴は何者で・・・
安室透は・・・何者なのか。
「ええ」
透さんの帰宅の申し出を聞き取ると、昴さんがその場をゆっくりと立ち上がった。
「す、昴さん・・・」
本当に彼をこのまま帰すのか?
服の裾を少しだけ引っ張りながら小声で彼の名前を呼び、視線でそう訴えた。
不安で潰れそうな私を他所に、彼は余裕の笑みを浮かべたまま、それを返事とした。
「では」
透さんがそう言って部屋から立ち去ろうとする。
その背中は物悲しく感じて。
今、彼と離れてしまったら・・・もう会えなくなるような。そんな気さえしてきてしまって。
「透さん・・・っ!」
制止を求める私の声は彼に届かないまま、部屋を出て扉は閉じられた。
ダメだ・・・ここで帰しちゃ。
でも、外には彼の・・・。
「・・・・・・ッ」
泣きそうになってしまうのを必死に堪えて、もう一度昴さんに視線を向けた。
私の訴えたいことは察しているようで、私の表情を見るなり小さく頷いてくれて。
その瞬間、彼を追い掛けて部屋を飛び出した。