第48章 不可欠
「貴女はこのまま、ここへ居て頂けますか?」
視線と私の言いたいことに気付いたのか、視線が交わった瞬間、そう言われて。
「・・・分かりました」
違和感だらけの空気に疑問を持ちながらも、小さく頷いた。
悔しいが、今はとにかく従うしかない。
「では、私はこれで。これからマカデミー賞の授賞式に行かなければいけないので。良ければ今晩のテレビ、見てください」
マカデミー賞の授賞式といえば今日これから国外であったはず。
「間に合うんですか・・・?」
「秘密のルートがありまして、ね」
いや、どう考えても間に合いそうに無いが。
「あ、あの・・・っ」
部屋から出ようとする工藤氏を呼び止めると、ドアノブに手を掛けた彼が足を止めて。
「・・・有希子さんによろしくお伝えください」
本当はそんなことが言いたかった訳では無いのに、絞り出した言葉はそれだけで。
・・・何より、彼が・・・工藤氏が居なくなることが何故か不安に感じた。
「分かりました、伝えておきます」
優しそうな笑顔でそう応えると、静かに部屋を出て行った。
「玄関までお送りしてきますので、貴女はここへ」
・・・また一人にされる。
孤独を感じる度、不安になるのは何故なのか。
「・・・はい」
弱々しい返事をしてはソファーへ向かって。
同時に昴さんは工藤氏の後を追うように、部屋を出て行った。
居なくなってしまったことを確認するようにドアの方を振り返るが、勿論そこに彼の姿は無い。
一瞬で静まり返った部屋はどこか物悲しくて。
・・・そういえば、コナンくんは家に戻ったのだろうか。
ここに居るなら姿を現すだろうから、きっとそうなんだとは思うけど。
そう思いながらソファーへ腰を下ろそうとした、その瞬間だった。
「・・・!」
ふと感じる視線に、神経が過敏に反応した。
なんだろう、誰かが見ている気がする。
誰もいないはずなのに。
慌てて辺りを見回すが、そもそも人が隠れるような場所なんて無い。
そこはかとない恐怖が、私の呼吸を乱していった。