第5章 となり
どこかで信じていたのかもしれない。
彼はまだ生きている、ということを。
改めて兄の死を突きつけられたようで辛かった。
何も知らなかった自分が憎い。
どこへもぶつけられないこの怒り。
心の底から自分に殺意が沸いた。
暫くの間、泣いて。
少しずつ息と気持ちを整えた。
「・・・すみません」
「少しは落ち着きましたか?」
すがりついていた安室さんからゆっくりと体を離して。
あまりにも冷静さを失った自分を情けなく思った。
安室さんの問いかけについては小さく頷いてみせて。
「今日はお疲れだと思いますし、とりあえずゆっくり休んでください。あ、ベッド使ってくださいね」
「そ、ソファーで十分です・・・!」
「それはダメです」
「えっ、きゃ・・・っ!!」
ソファーでの就寝を却下されるや否や、安室さんに横抱きにして抱えられた。
ふわりと急に浮いた体に一瞬恐怖に似た感情が宿り、落ちないように安室さんの首へ腕を回す形で抱きついた。
「遠慮なく使ってください」
優しくそっとベッドへ置かれる体。
この心臓の高鳴りは恐怖からか驚愕からか、それとも・・・。
ゆっくりと離れようとする安室さんの体。
それが急にとてつもなく不安に感じてしまった。
無意識に引き止めるように両手で腕を掴んで。
それに驚いた様子で、安室さんがこちらに視線を向けた。
自分が何をしたか気付いた時には血の気が引いていて。
「す、すみません!何でもありません・・・!」
掴んでいた手をパッと離し、思わず両手で顔を覆った。
申し訳なさと恥ずかしさでその場から消えてしまいたくなった。
その様子を見て彼はクスっと笑って。
「良いですよ、ひなたさんが眠るまで傍にいますから」
そんな要求はしていないけれど。
でも、無意識に心の中で求めていたことはきっとそれで。
半分起こしていた私の体をベッドに優しく倒し、布団をかけられた。
その横へ安室さんが腰掛けて。
ベッドがギシッと音をたてて沈むのが、何故だか心地よく感じた。
「何か話しましょうか」
そう言って、安室さんは最近あった何でもないことを色々話し始めた。