第5章 となり
「つまり、殉職・・・ということですか?」
何か危険なことに巻き込まれたのだろうか。
亡くなった時の彼を想像すると手に力が籠った。
「・・・いえ、交通事故だったそうです」
少しの間を置いて安室さんが答えて。
それは私にとって、意外な返答だった。
「手紙は殉職した時のために事前に書いていたものだったようですが」
身寄りがなかった彼の死は誰にも伝えられなかった。
私には彼が遺した手紙を通じて知らされたが。
でも私にはどこか引っ掛かりがあった。
何故だか腑に落ちなくて。
安室さんがしっかり調べてくれたんだ。
間違いはないはずだが。
「お兄さんのこの世を去った理由、という依頼についてはこれが以上となります」
あまりに呆気ない結果。
でもそれが安室さんが出した結論だ。
私はそれを受け入れる他なかった。
「・・・お世話になりました」
お礼を言いながら、ゆっくりと頭を下げた。
これで良い。
引っ掛かりは感じたが、兄の手紙にも書いてあったように、これ以上関わってはいけない気がした。
終わったんだ、これで良かったんだ。
「納得いかないようですね」
バレてしまった。
泣くのを堪えながら顔を上げて。
「・・・すみません。でも、これが真実なら受け止めます」
自分の発した言葉に偽りはなかったが、気持ちは偽りだらけで。
矛盾する感情に心が壊れていきそうだった。
「ご飯を作ることくらいしかできませんけど、何か他にも出来ることがあればいつでも頼ってくださいね」
ああ、やめてほしい。
今そんな優しい言葉をかけないで。
堪えていた涙が、一粒溢れた。
「安室さん・・・っ」
「はい」
一粒、また一粒と涙が次々と零れた。すがるように名前を呼ぶと優しく返ってくる声。
悔しい、今はその気持ちが大きかった。
兄の力になれなかった。
兄のことに気付けなかった。
兄ともっと話しておけば良かった。
もっと・・・もっと生きてほしかった。
「安室さ・・・っ、あむろ、さん・・・っ!」
「大丈夫、ここにいますよ」
彼の胸を借りながら泣きじゃくる私を、優しく抱き締めて。
落ち着かせるように背中を一定のリズムで軽く叩いてくれた。
安室さんの鼓動、匂い、存在を感じながら暫く声を上げて泣き続けた。
色んな感情に押しつぶされ、苦しくて苦しくて仕方なかった。