第47章 黒い霧※
「・・・透さんになら・・・大丈夫だと思ってました・・・」
過信、と言えばそうかもしれない。
彼の為なら、彼がするなら。
そう思えていたのに。
でも、いつしか過去形になってしまっているその思いが、嘘だったとは思いたくは無くて。
彼を愛したことは嘘ではないし、今でも愛している。
「僕にも大切な人がいたんですけどね」
突然、そう彼が漏らして。
過去形のその言葉に、胸がざわついた。
「・・・いた、というのは・・・?」
何故か気になって。
問い詰めてはいけないと思ったのに。
「貴女のお兄さんと同じところへ行きました」
・・・やっぱり、聞いてはいけなかった。
彼もまた、大切な人を・・・失っているんだ。
「貴女が僕の目の前から消えてしまうなら、失うのは二人・・・いや、三人目になりますね」
そう言う笑顔に、胸が締め付けられた。
「・・・情で訴えてもダメですよ」
「おや、そう聞こえましたか?」
そうでなければ、何の為に教えたのか。
それでも彼と重なる自分に、親近感とは違う心の距離の近さを感じて。
「もしかして、その方の為に組織のことを・・・?」
何となく、そう思っただけ。
素直な問いを投げかけては、彼の目を見つめて。
それを聞いた沖矢さんは暫く黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「それも、無いとは言えないですね」
その言葉から、それ以外の理由もあることを知って。
彼が組織を追う本当の理由とは・・・何なのだろうか。
そこまで考えて、無意識に彼へ興味を持ってしまっていることに気がついた。
「貴女も、僕の前からいなくなりますか?」
ズルい。
そんな質問。
「・・・っ」
私が返答できないと分かっていての質問。
彼らしいと言えば、そうだけど。
「・・・分かりません」
今の私に答えは出せない。
透さんのことは諦めていないし、忘れることもできない。
沖矢さんで忘れることも・・・きっとできないだろう。