第47章 黒い霧※
「・・・お断りします」
それでも透さんを忘れることはできない。
それに、さっきの思いは彼への憐れみからくるものだったとしたら。
それは彼に対する侮辱であり、ただの偽善者だ。
「残念です」
あまりそうは思っていなさそうに言われると、また胸が締め付けられるような思いになって。
「もう、大切な人を作りたくは・・・ないので」
キャンドルの炎を見つめては、そう零れるように言葉を漏らして。
「いなくなるから、ですか?」
そう問われながら、沖矢さんの手が頬を滑る。
透さんの少し冷たい手では無く、意外と男らしいその手は熱いくらいの熱を持っていて。
自然と顔は向き合うような形にされた。
「・・・それも、あります」
一番の大きな理由はそうなのだろうが、私が大切だと思った人は、不幸になってしまうような気がして。
「僕は、貴女の前からいなくなることはありませんよ」
・・・だから、貴方を選べと?
「そう、ですか」
顔は向き合っているものの、視線だけは彼から逸らして、あしらうようにそう返事をした。
数秒間、静かな時間が流れた後に口を開いたのは沖矢さんで。
「これが消える頃には、僕といる決意をさせてあげましょうか」
そう言って首元に指を沿わされた。
そういえば、と思って瞬時に手でそこを覆い隠すが、今更遅いことは双方分かっていて。
「最後に彼からのプレゼントですかね」
「・・・私の我儘を聞いてもらったんです」
他のことに気を取られ過ぎていて、つけられた痕については気が回っていなかった。
沖矢さんに隠すつもりはないが、きっとコナンくんにも見られてしまっただろうな、と思えば途端に恥ずかしさが出てきて。
「では、僕からはよく眠れるおまじないでも」
そう言い終わるなり、唇同士が触れ合った。
突き放したいのに。
時折それが出来なくなるときがある。
それは・・・彼を受け入れているからだろうか。