第47章 黒い霧※
「・・・阿笠博士のように、発明はできませんが機械を触るのは好きですよ。ここに来たせいで暫くできていませんけど」
皮肉っぽく返しながらカップをソーサーに戻して。
あのパーツ達はできれば部屋から取り戻してきたいものではあるけど・・・それももうできないんだろうな、と思いながら。
「意外ですね、貴女にそんな趣味があったとは」
もしかしたら、そんなこと既に知っているのでは、と疑いながらも言葉通りな声色で返す彼の言葉に耳を傾けて。
「・・・ご両親は今どちらに?」
続けてきた突拍子もない質問に、ピクっと一度反応した後に暫く止まってしまった。
まさかそんなこと、聞かれるなんて思わなかったから。
「・・・いません、記憶にもありません」
気付いた時から私は施設育ちだったから。
だから唯一家族と呼べたのは・・・兄だけ。
その兄ももういない。
支えとなっていた存在も・・・消えてしまった。
「沖矢さんのご両親は?」
涙が出てきそうなのを誤魔化す為に、咄嗟に沖矢さんへそう返して。
「・・・沖矢昴に、親族は存在しませんよ」
気になる言い方に、無意識に視線が彼へと動いた。
変わらない笑顔の沖矢さんだったが、揺れる炎のせいか私には悲しそうな笑顔にも見えて。
暫くその表情から目が離せなかった。
「形は違えど、同じですね」
沖矢さんがポツリと呟くと、再びコーヒーに口をつけた。
別に私は、両親がいないことが不幸だとは思っていないが・・・彼とは考えが違ったら。
そう思うと少し胸が苦しくなった。
「貴女が僕の家族になってくれれば、この上ない幸せですけどね」
その言葉に、更に苦しくなって。
安室透という存在を失った今、私にはもう何も残っていない。
無意識にでも頼ってしまっているのは、目の前の彼で。
そんな彼を・・・ほんの少し、救いたいと思ってしまった。