第47章 黒い霧※
「・・・どうして隣なんですか」
「嫌ですか?」
「嫌だから聞いたんです」
冷たく返しても、彼にはいつものように効いていない様子で。
くすくすと笑われながら、何故か部屋の照明を落としに立ち上がり、キャンドルに火をつけた。
「たまにはこういうのも、良いとは思いませんか?」
薄暗い部屋に揺れる炎に何故か目を奪われて。
それに対して嫌だという思いは無かったが、それを行ったのが彼だということに小さな嫌悪のようなものを感じた。
・・・どうしてそこまで彼を毛嫌いしてしまうのかは、自分でもハッキリとはしないのだが。
立ち上がったからには向かい側に座り直すんだと思っていた彼は、再び隣に腰掛けて。
言ったところで意味が無いことは分かったから。
敢えてそのことにはもう触れなかった。
「ひなたさんのことを聞いても構いませんか?」
コーヒーを一口飲んだ後、突然そう尋ねられて。
視線だけを沖矢さんに向けながら、私もコーヒーに口をつけた。
「・・・面白い情報なんてありませんよ」
沖矢さんに知って欲しいとも思わないし。
「貴女のことを知りたいんですよ」
足を組み、腕をソファーの背もたれに添わせるように回されながら、そう言われて。
私のことを知って・・・どうするつもりだろうか。
「沖矢さんのことも教えてくれますか」
「答えられることでしたら」
答える気なんてない返答を聞けば、余計に話す気は削がれてしまって。
・・・それでも、彼について知っておきたいことはいくつかある。
教えてくれるかは分からないが。
「私の何が知りたいんですか」
今更言えるようなことも無いと思うけれど。
「そうですね、貴女の趣味・・・とか」
真剣なようにも惚けたようにも聞こえる物言いに、本気で答えた方が良いのか迷ってしまって。
本当に・・・ただの雑談がしたかっただけなんだろうか。