第46章 近づく
私の返答を聞いた沖矢さんは、いつもよりもっとふてぶてしく笑って。
「随分と優しくされているんですね」
くすくすと笑いながらそう言った。
「・・・何の薬か分かったんですか」
彼の態度からしてそれは明らかだった。
けれど私にそれが何なのか判断できる訳もなく。
「ええ、安心してください。命に関わるものではありませんし・・・寧ろ貴女を助けるものですから」
・・・どういう意味なのか分からない。
私を助ける薬・・・とは。
「・・・沖矢さんのそういうところ、嫌いです」
肝心なことは何も教えてくれない。
後に知ったとしても反応は薄いし。
まるで私がこれから知ることを予想しているかのようで。
だったら最初から教えてくれれば良いのに。
「僕は貴女のそういう拗ねたような姿も、好きですよ」
沖矢さんに好かれたところで仕方がないのに。
その愛が・・・透さんからだったら良かったのに。
「・・・もういいです」
そう言い残して、椅子から立ち上がった。
彼と居ると、やっぱり自分が自分じゃ無くなる気がする。
どれが本当の自分なのか・・・分からなくなる。
「おやすみなさい、布団はきちんと掛けてくださいね」
「子ども扱いしないでくださいって・・・!」
沖矢さんに背中を向けて歩きかけたところでそんなことを言われたから。思わず振り返って言い返してしまった。
歳はそう変わらないはずなのに。
どこか大人っぽく見える彼に余計腹が立ってしまって。
キッと睨めば睨むほど、彼の笑みは増していった。
「・・・っ」
色々言いたいことを飲み込んで、再び背中を向けて歩み始めた。
少し乱暴にドアを開けて閉めると、物に当たってしまったことへの小さな罪悪感が生まれて。
・・・数時間前には殺されかけていたなんて嘘のような気持ち。
これは沖矢さんのおかげなんだろうか、と一瞬考えては、そんな訳ないと自問自答を繰り返した。