第46章 近づく
「まあ、今日はお疲れでしょうから、ゆっくり休んでください。・・・何なら、ついていてあげましょうか?」
嘲笑うような、逆撫でするような言い方。
けれど、そこに悪意は感じられなくて。
それは彼なりの優しさの表現だということは分かっているから。
「お願いします・・・とでも言うと思っているんですか?」
「弱っている隙間に入るのは、鉄板ではないですか?」
質問を質問で返されて。
確かに心は弱りきっているけれど。
彼がその隙間を埋められるほどの存在だとは思っていない。
それに。
「・・・沖矢さんが埋めるような隙間はありませんよ」
「おや、それは残念」
いつもの声色が言葉と一致していないそれは、どことなく安心感があって。
何気ない『いつも』が、これ程までに幸せだったなんて。
それを感じたのが彼で、というのは少し悔しいけれど。
「・・・あ、れ・・・?」
そういえば、と思い出しては無意識に指を手にやった。
「どうかされましたか?」
突然の私の言葉や動作を不思議に思ったのか、徐ろに立ち直した沖矢さんがそう尋ねてきて。
「・・・睡眠薬」
そう、殺される直前・・・透さんに飲まされたはず。
即効性の物だと言ってはいたけれど・・・あれからかなり時間は経った。それが聞いていないということは、もしかして・・・。
「透さんに即効性のある睡眠薬を飲まされたんですが・・・効いていないみたいなので・・・」
実は毒薬でした・・・という結果でも、正直なところ構わないけれど。
状況からしてそれは無いだろうし。
恐らくそれは。
「睡眠薬では無かったんでしょうね」
私の疑問に対してそう答えた。
多分それはあっていると思うが・・・問題なのは、飲まされたそれが何だったのか、だ。
「カプセルでしたか?」
「あ・・・いえ、錠剤だったかと・・・」
どうしてそんなことを聞くのだろう。
聞いたところで、何の薬か判別できるわけでもないだろうし。