第46章 近づく
「それは透さんを忘れる理由にはなりません」
思った通りの言葉を口にして。
「彼を忘れていないと、また傷付く事になりますよ」
「・・・っ」
・・・確かに、そうかもしれない。
少なからず彼は私を消そうとした。
また彼に会えば・・・また組織に関われば、少なからず危険だって生まれる。
どういう形であれ、私は彼を・・・透さんを組織から離したい。
でも、あの様子からすると彼は組織に溶け込んでいて。
その中で一つ、気になっているのは。
「・・・お礼を・・・言ってきたんです」
「お礼?」
銃口を向けた後、耳元で囁やかれたあの言葉だけは絶対に忘れない。
「私を殺そうとした直前、彼が・・・」
だから、この望みを捨てきれないんだと思う。
「それを忘れるまでは、彼を忘れることはできません」
苦しいけれど。
私だけが、彼を思って。
彼は、私を忘れていて。
「ではそれも、僕が忘れさせてあげますよ」
目の前に肘をつきながら、風呂場内でも言われたことに付け足された。
「・・・残念ですけど、沖矢さんでは無理です」
「試してみますか?」
挑戦的な目。
どこか透さんに向けていたものと似ている気がする。
その目に、喧嘩を売られたような気になって。
「臨む・・・ところです」
売られたからには買う、というわけでもないが。
何となく、試してみたくなった・・・と言った方が正しいかもしれない。
沖矢さんの力では無理なんだと。
やっぱり透さんが好きなんだ、と確かめる為に。
「途中で辞めるなんて言いませんよね?」
「・・・何の確認ですか」
私が怖気付いているとでも思っているのだろうか。
「いえ、最終確認ですよ」
少し眉間に皺を寄せながら彼を睨めば、また嘲笑うように笑みを向けられて。
・・・こんな男に、靡くはずなんてない。
堕ちるはず・・・ない。