第46章 近づく
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体を綺麗に洗い直し、湯船に張られたお湯に浸かれば体だけは温まって。
・・・心はどこか冷たいままだけれど。
脱衣所に出ると、そこには私の部屋着や下着が準備されていた。
勝手に部屋に入られた、という怒りと同時に、裸で室内を歩き回る羽目にならなくて良かった、という安堵も生まれて。
それらを見に纏い、彼の言われた通りにいつもの部屋へと向かう最中、キッチンから何か良い匂いが漂ってきて。
そこへ顔を覗かせると、沖矢さんが何かを用意している様子だった。
「もう上がられたんですか」
私に気付いた彼が、味見用の小皿を手にそう言ってきて。
こんな時間に何をしているんだろう、と思いながらも、晩御飯を食べ損ねていた体にその匂いは毒とも言えた。
「食べられますか?お口に合うかどうかは分かりませんが」
お醤油のような香り・・・煮物だろうか?
正直、食欲は無かったけれど、用意してくれた彼にもなんだか悪いような気がして。
どうしてそう思ったのか、自分でも不思議だったけど。
「・・・少しだけ、頂きます」
そう言って椅子に腰掛けて。
彼が笑顔を返してくれたのを見て、どうして透さんじゃないんだろう、とどうしようもないことを思い耽った。
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「ご馳走様でした」
案の定、そこまで量は食べられなかったが、とりあえずの食事は済ませて。
「お口に合いましたか?」
残してしまったことについては、敢えて触れないようにしているんだろうか。
「・・・悔しいほどに」
「それは良かった」
笑顔で返す沖矢さんに、また罪悪感に近いものを感じた。
ハッキリとしないこの曖昧な気持ちが、自分を壊していることに気付いているのに。
それでも自分の気持ちが分からなくて。
彼への対応や、言葉が・・・どうしたら良いのか分からなくなる時がある。
嫌い・・・なはず、なのに。