第45章 盗出す※
「おっと」
完全に全身の力が抜け、床にへたりこんでしまって。
それでも支えることをやめない沖矢さんも、同時に濡れた床へ座り込んだ。
「・・・さい、てい」
それは彼にも、自分にも向けた言葉。
例えそれが彼の善意であっても、私には嫌悪にしか感じられないから。
「今はそれでも構いません。これからゆっくりと、振り向かせてみせますから」
そう言いながらまた唇を落とされて。
噛んでしまえば良かった。
突き放せば良かった。
それでもそれができなかったのは・・・何故だろう。
「ん、ぅ・・・ふぁ・・・っ」
優しく絡まる舌が心地良いと感じてしまう。
彼で・・・沖矢さんで、透さんを忘れようと・・・しているんだろうか。
「態度によらず、随分と素直なんですね」
少し濡れた彼が色っぽく感じて。
また高鳴った心臓を誤魔化すように、顔を背けた。
「・・・どうして沖矢さん、服着たままなんですか」
彼の言葉は聞かなかったことにして、ずっと気になっていたことを問い掛けた。
「脱いで欲しいんですか?」
意地悪そうにそう聞かれ、自分の質問が墓穴を掘ったことに気が付いた。
「・・・誤解しないでください」
急いでシャワーを手に取り、そこからお湯を出すと沖矢さん目掛けてそれを向けた。
「・・・!」
腕でそれを防ごうとする彼に、僅かばかりの罪悪感はあったものの、自分の気持ちを隠すことに必死で。
「出てってください・・・っ」
掛けていたシャワーを逸らし、腕で体を隠しながら彼にそう言い放って。
「・・・随分と乱暴なお姫様ですね」
笑みを浮かべながら話す沖矢さんの気が知れなくて。
知ろうとも思わないけど。
「温かい紅茶を準備しておきますから、上がったらいつもの部屋へ来てください」
そうとだけ言い残し、びしょ濡れになった彼はお風呂場を後にした。
その先を暫く見つめては、僅かに湧いてきた反省の気持ちに沈んでしまいそうだった。