第45章 盗出す※
「それについては心配しなくて大丈夫です」
青信号に変わり、車を再び発車させながら沖矢さんが強めの口調でそう言った。
「彼が貴女のことについてこれ以上組織に話すことは、まずないでしょう」
どうしてそんなことが言い切れるのか。
そんな根拠、一体どこにあるのか・・・。
「恐らく、さっきの騒ぎに紛れて貴女を始末した事にしているか、見逃すことにしているでしょうし」
・・・そんな馬鹿な。
あんなことをした上、銃口を向けたのに。
わざと見逃したとなれば、あのベルモットだって透さんに何をするか・・・。
「・・・!」
『・・・さようなら』
囁くように言われたあの言葉が突然、脳内に響いた。
あれは絶対にバーボンの言葉では無い。
・・・でも、今思えば安室透のものでもなかった気もする。
最近見え隠れしていた、彼のもう一つの存在。
・・・あれが、彼の本当の姿・・・なんだろうか。
だとすると、あの言葉の意味・・・とは。
「ひなたさん?」
「・・・あ・・・すみません・・・」
沖矢さんに名前を呼ばれ、我に返った。
いずれにせよ、組織から逃げなくてはいけない状況は変わらない。
だったら彼らから離れて・・・。
「なので、これからも暫くはあの家に住んでください」
「・・・・・・え・・・?」
沖矢さんは言っている意味が分かっているのだろうか。
私があそこにいれば、彼やコナンくんにだって・・・。
「僕の傍を・・・離れないでください」
「・・・っ」
その表情にいつもの笑顔は無くて。
あったのは真剣な眼差しだけ。
見据えていたのは私ではなく、車を進める前方だけれど。
「僕もそうした方が良いと思う」
後部座席からひょこっと顔を出しながら、コナンくんがそう付け加えて。
どうせ行く宛てもない。
沖矢さんに守ってもらうつもりなんてないし、彼らを危険に晒したくはないが・・・。
「・・・よろしくお願いします」
服をギュッと掴んで、絞り出すようにそう伝えた。