第44章 掠めて※
「・・・せめてもの優しさです。苦しまずにあの世へ行かせてあげますよ」
そう言ってどこからか取り出した薬のようなものを、口の中に放り込まれた。
「・・・んん・・・ッ!!」
「安心してください。ただの即効性のある睡眠薬ですよ」
私の口を塞ぎ、吐き出すことを禁じられた。
これが毒薬でも、吐き出すことはないだろうが。
「貴方にしてはヌルいんじゃない?・・・バーボン」
「彼女にはだいぶ楽しませて頂きましたからね」
睡眠薬を飲み込んだことを確認した所で、口を塞いでいた手は取り払われた。
そして、服の中に隠していた拳銃を手にし、その銃口を私の額の方へと向けた。
・・・なんだろう。
これ、前にも一度・・・経験したことがある気がする。
・・・ああ、そうだ。
少し前に・・・こんな夢を見たんだ。
あの夢とは少し状況が違うけど・・・感覚は似ている。
そんな風に思い出していると、透さんが徐ろに耳へと口を近付けた。
「・・・ありがとう」
囁くように言われたその言葉に、思わず目を見開いた。
すぐに顔は離れ、彼の表情が確認できて。
泣きそうなその笑顔に、苦しくなって。
「愛して・・・いました」
夢の中とは違う言葉をかけて。
「・・・さようなら」
夢の中と同じ言葉をかけられた。
睡眠薬、あんまり聞かなかったな・・・なんて思いながらゆっくりと目を閉じた。
カチャッという銃の音に、覚悟を決めて。
もっと貴方を知っておきたかった・・・。
そう思い直した、瞬間だった。
「・・・ッ!!!」
何かが崩れるような大きな音が響いた。
思わず目を開き体を起こして辺りを見回すと、転がっていたドラム缶や木箱が、大きく破壊されていて。
ただでさえ埃っぽかった室内には、土煙のようなものが立ち込め、視界を遮られた。
一体・・・何が起きているの。
「・・・!!」
唖然としている最中、透さんの足元に音を立てて何かが降ってきた。