第5章 となり
「ひなたさん、どうぞシャワールーム使ってください。その間にご飯準備してますから」
「ご、ご飯くらいは私が・・・!」
「お昼はごちそうになったので、夜は僕が」
言いかける私の口に人差し指を当てられ、遮られてしまった。どうにもこの人には強く言えない。
エプロンをつけながら安室さんはシャワールームに案内してくれた。
「タオルはここから適当に使ってください」
「ありがとうございます・・・」
部屋同様に綺麗に整頓されている。本当に几帳面な性格なんだな、と。よく散らかす私とは正反対だ。
そんなことを薄ら考えながら脱いだ服を畳んでいく。
シャワーを浴びてさっぱりした状態で部屋に戻る。もやもやしていた気持ちもどこかすっきりしたように感じた。
「お風呂ありがとうございました」
「どういたしまして。ご飯も丁度出来上がりましたよ」
テーブルを見るとハンバーグをメインにサラダやスープまである。どこの洋食屋さんだろうかと思う程の豪華さだ。
それより、これが作れる材料を買い置きしてあったのか。ということは普段からここを使用していたのだろうか・・・と悶々と考えて。
「食器、今度買い足しておきますから」
安室さんが少し申し訳なさそうに笑って。
よく見ると確かに食器がバラバラだ。
今まで一人で使っていたのなら食器も一人分か、と納得しながら首を振って。
「大丈夫です、安室さんのお料理は食器で味は変わりませんよ」
「ひなたさんに言ってもらえると心強いですね」
私の言葉にそこまで力はないけれど。安室さんにそう言ってもらえるほうが私の中では心強かった。
その後二人で何でもない会話をしながら食事を済ませた。
ポアロで働きだしてから誰かと食事することが増え、社会から一時退いていた身としては少し社会復帰できたようで安心していた。
大抵、梓さんとまかないを食べるだけなのだが。
「すみません、夕飯までごちそうになって・・・」
「いえいえ、料理は趣味ですから」
洗い物だけはと言い切ってさせてもらった。済ませて戻り改めてお礼を伝えると、スマホを触っていた手を止めてこちらを見て笑顔を向けてくれる。
「・・・安室さん明日は?」
「明日は探偵になってますよ」
探偵の安室さんとポアロの安室さん。
どちらも安室さんだが、私の中ではそれぞれの違う安室さんがいた。