第5章 となり
安室さんの口元は笑っているのに目は真剣で。
「・・・はい」
複雑な気持ちながらも自然と返答の言葉が漏れる。
暫くその吸い込まれるような青い瞳に見つめられ、目を離せずにいた。
「・・・ちょっとだけ動かないでください」
「え・・・っ」
何かに気付いた様子でそう言うなり、私の座る傍に手をついてゆっくりと体を近付ける。迫るその体に自然と力が入り、息を止めた。
顔同士がギリギリまで近付いて、ついている手とは反対側の手が私の顔に近付いてくる。その行動に反射的に目を瞑った。
首元にそっと手を這わされたことを感じ、ビクッと体が小さく跳ねる。
「取れました」
その言葉にゆっくりと目を開けた。安室さんは元いた場所に戻っている。
一体何だったんだろう。
「・・・ゴミがついていたようで」
安室さんが首元を指さす。
触れていた感覚があった場所に手を置くとブラウスの襟。どこかで何かついてしまっていたようだ。
「あ、ありがとう・・・ございます」
なるほど・・・、と納得しながらも変に緊張してしまった自分を恥ずかしく思った。
「そういえば今朝、コナンくんと何か話をしていらしたみたいですけど、何話してたんですか?」
「・・・え?」
どうして急に。
安室さんの口から彼の名前が出ることは想像していなかった。彼からのメモについては知られてはいけないのだろうから、動揺しながらも誤魔化す内容を必死に考えた。
「け、今朝話した博士という人に会う話ですよ」
本当に少しだが話したことには違いないから。口を滑らせないようにそうとだけ伝えた。
「それだけですか?」
「え、ええ・・・」
笑顔、なのに。心を見透かすような瞳。何もかも分かっているような口ぶり。
一瞬だけ、安室さんが怖いと感じた。
「次は僕も話に混ぜてくださいね」
立ち上がって軽く握った片手を口元に近付けながら話した。
全部分かってるんじゃ。そう思ったが、それを口に出してしまうと自白と同じだ。なるべく墓穴を掘らないように黙っておくことにした。
私は一体、どちらの味方なのだろう。
敵味方ということではないのだろうけど。どっちつかずなこの感情に早くケリをつけてしまいたかった。