第44章 掠めて※
「どこが良いですか?」
そんなの聞かなくたって。
「・・・透さんの、好きなところに」
どうせ誰にも見られることなく、無くなるのだから。
「では、失礼します」
そう言って噛み付くように吸い付いたのは、服では隠すことのできない首筋で。
「・・・っ」
僅かな痛みに似たような感覚に、自然と透さんの肩を掴んだ手に、力が入った。
「っひ、ぁ・・・!」
跡をつけ終わるなり、首筋を舌で舐めあげられて。
ゾクッとした感覚に、体が大きく反応を見せ、声が漏れた。
「しっかりと付けておきましたから」
「・・・ありがとうございます」
お礼を言うなんておかしいかもしれないけど。
我儘を聞いてもらったのは事実だから。
「・・・最後に、あの時のことをお話しておきましょうか」
私から視線を逸らしながら、透さんが突然そんなことを言ってきて。
彼の言うあの時というのには、心当たりがあるような無いような。
「僕は貴女を一度だけ、無理矢理抱いたことがあるんですよ」
「・・・!」
その言葉を聞けば、彼の言うあの時というのが理解出来た。
きっと、沖矢さんに変装して工藤邸に来た・・・あの時。
「まあ、最後は貴女も乗り気のようでしたけど。・・・いつも彼にはああやって抱かれていたんですか?」
「ちが・・・っ」
今更言い訳をしたって遅いし、意味は無い。
けど、あの時の繋がりは沖矢さんだったから・・・というわけじゃないことは、分かってほしくて。
「あの男に化けるのは不本意でしたけどね。本当に貴女があそこに住んでいるのか、彼は何者なのか知る為に仕方なく、そうさせて頂きました」
あれが透さんじゃないかということには、薄々気づいてはいた。
そうすれば、あの時聞こえた声だって説明がつくから。
・・・そうであってほしいという願望でもあったのかもしれないけど。