第44章 掠めて※
「・・・どうして、沖矢さんに変装してまで・・・私を襲ったんですか」
あの時抱いたのがバーボンであれば、バーボンに抱かれるのはこれで二回目になるのか、なんて頭では冷静に考えていた。
「・・・貴女をあの男から引き剥がし、始末しやすくする為ですよ。僕の事務所に来てくれれば、もっと上手く消すことが出来たんですけど、ね」
笑みは浮かべているものの、睨み付けるような視線でベルモットの方へと目を向けた。
それを追うように彼女へ視線を向けると、両手の平を上へ向け、知ったことではないと言いたげなジェスチャーで示してみせた。
「最後に一つ・・・聞いてもいいですか」
「何でしょう」
ベルモットから移された視線を確認した所で、小さく呼吸を整え、彼の目を真っ直ぐ見つめた。
「・・・私に言ってくれた言葉は・・・全て嘘だったんですか?」
本当は聞きたくなんてない。
このまま綺麗な記憶で残しておきたかったから。
それでも彼を・・・どこかで信じていたのかもしれない。
「ええ。貴女に近付く為の、嘘です」
その言葉に、絶望と安堵を覚えた。
やっぱり嘘だった、偽りの愛だった、という絶望。
そう思う反面、このまま彼の記憶に残らず済むんだ、という安堵。
「・・・そう、ですか・・・」
目を伏せながら無理矢理笑って。
「私は・・・貴方を本気で愛してしまいました」
また涙が零れて。
これで、心置き無く貴方の元を去ることができる。
そう思えば、少しは楽になれた。
「・・・優しくするかどうかくらいは、選ばせてあげますよ」
指で涙を拭ってくれる、その仕草は優しくて。
いつもの・・・透さんの少しだけ冷たい手。
大好きな・・・彼のぬくもり。
「・・・嫌いになれるくらい、優しくしないでください」
彼の手の上に手を重ねて。
もう触れることはないんだな、と思えば少しだけ寂しい気もした。