第44章 掠めて※
「まさか」
そう一言告げたバーボンの、笑った口元だけは見えて。
それがどこか悲しげに見えたのは気の所為だろうか。
・・・貴方に触れたいのに。
後ろ手に縛られている為、それは許されなくて。
「じゃあここで始末しなさい」
体が自然にピクっと動いた。
覚悟はしているんだから。
それに、もう決まっている事だ。
ただそれが・・・少し早まるだけ。
そう思っているのに。
体は小刻みに震えて。
呼吸が荒くなって。
・・・ただただ、怖くなって。
本望を叶えられるんだ、と言い聞かせて。
「最後に玩具として遊ばせてくれるくらい、時間は無いものですかね」
ベルモットの方へ体を向けながら、そう言い放った。
彼の言う玩具とは・・・そう言う意味だということは分かっている。
・・・やっぱりあれに、愛情なんて物は無かったんだ。
今更そんなこと思っても仕方ないのに。
それでも良いと思って繋がっていたのに。
最初から・・・裏切られてなんか無かったのに。
「今ここで、最後の別れをしたら良いじゃない。見届けてあげるから」
「悪趣味ですね」
そう笑いながら言いつつも、透さんは近くにあった木箱の上に私を下ろした。
手や足に巻かれたテープは、どこからか取り出したナイフで切り落とし、ようやくある程度の自由を手に入れた。
「ベルモットの希望ですから・・・悪く思わないでくださいね」
そう言って、木箱の上に転がる私に覆いかぶさるなり、その口は塞がれて。
「ん、ぅ・・・ッ!」
いつものキス・・・よりは優しく感じる。
それは彼なりの配慮なのか・・・それとも。
「ふ・・・ぁ・・・、んん・・・っ」
・・・彼がバーボンで抱くのは初めてなんだろうか。
最後くらいは、透さんが良かったな・・・なんて思えるくらいには、自分の人生は諦めていた。